「あからさますぎない? その玲子って下級生」
各々が捜査した結果を持ち寄り、武の探偵事務所に集合した面々。由美達の報告を聞いて先に発言したのは、彼女のパートナーだった。
「文字通りの警告って訳はないだろうし……挑発行為だとしても、なんでそんなことをする必要があるのか……」
パスカルの言葉に頷きながら、武が顎に手を当てホワイトボードを睨みながら考え込む。さながら刑事ドラマのように、ホワイトボードには調査結果に基づいた人物相関図が書かれていた。
「今調査している内容から考えると、狭間って子と関係あるのかしら?」
相関図で唯一、何処とも接点のないのが今話題に上った赤根沢玲子。この人物を除けば、今のところ全てが狭間偉出夫という人物と何らかの関わりがある。となれば、狭間との関連性を先に疑うのは推理の流れとして当然だろう。
「関係かぁ……もぐ、ん、関係あるかどうか知らないけど、「共通点」ならいっぱいあるよね」
テーブルに並べられた夕食を食べながら、たまきがパスカルの疑問に答える。答えながら、たまきはエンジェルが丹精込めて作ったハンバーグにナイフを入れていた。
「性格はともかく、二人ともとっても頭が良いんだよね。それで、二人ともお金持ちなの」
「……ああ、それで思い出した。そうか、「アイツ」があのお嬢様か……」
下級生の挑戦的な視線を思いだし、由美は不愉快さを隠さず眉間にしわを寄せる。何も知らない武達に、由美とたまきが二人のことを話し出す。
二人は共にそれぞれの学年で常にトップの成績を維持しており、また実家がとても裕福なことで知られている。だが一方はその育ちが裏目に出て傲慢な性格をしており、もう一方はいかにも「お嬢様」という品のある育ち方をしている。方やその性格からイジメを受け、此方その性格から親しまれている……特徴的な共通点があるのは確かだが、二人に何らかの関連性があるようには思えないというのが、在校生二人の証言。
「だけど、そのお嬢様も化けの皮が剥がれたって感じだけどね」
根に持つような性格ではない由美なのだが、彼女の中で玲子に対する第一印象が悪すぎたのだろうか……ある意味、「挑発」の効果がここまで持続し効果を現していると言えるだろうか。
「……とりあえず、彼女のことは別件として扱う方が良さそうだな。関係があるんなら、調べていく内に判るだろう」
武は玲子と書かれた文字の周りを赤マジックでグルグルと囲みだす。
「重要なのは、この玲子って娘が由美達に言ったこと……悪魔召喚プログラムを調べるのを止めろ……か」
身体を揺らしギシギシと椅子をきしませながら、武は又顎に手を当て考え始めた。
「その娘も、プログラムのことを知っている……と考えるのが打倒よね」
パスカルの言葉に、場にいる者が皆頷く。
「そう考えますと……そう思われるのを承知の上で、由美さんに接触してきたのでしょうか?」
「もしそうであれば……警告や挑発と言うよりは、自分に「捜査」の目を向けさせるためにあえて近づいた……と考えられないでしょうか?」
ベスがたまきに紅茶のおかわりを注ぎながら自分の推理を語り、エンジェルがたまきの食べ終えた皿を片付けながらベスの推理に追随する。そして二人の主人がそうかもなと同意した。
「となれば……その赤根沢って娘もサマナーなのか?」
武の言葉に、今度は皆が首をかしげる。
「難しいわね。プログラムのことを知っていたとしても、サマナーであるとは限らないし……」
難しい話ばかりで退屈しているピクシーを頭の上に乗せながら、パスカルが慎重な答えを選んで口にした。
「そうだな……なんにしても、調査対象が増えたのは間違いないな。二人とも大変だろうけど、その娘の事も含めて捜査を続けてくれ」
頷く二人を見守りながら、武はティーカップに口を付ける。一息ついたところで、武は又ホワイトボードへ目を向けた。
「さて……狭間偉出夫、赤根沢玲子と調査すべき人物が浮かび上がってきたのは良いけど……こうなると俺達が中々手を出せないな」
調べるべき人物が校内にいるのでは、在学生の二人に頼らざるを得ない。むろん外からでも色々調べられることはあるのだが、武達よりは由美達の方が捜査しやすい状況にある。それと同時に……
「それにサマナーかも知れないのなら、迂闊に校内へ侵入するのももう出来ないわね」
パスカルが由美を心配そうに見つめながら呟いた。校内を自由に動き回れる二人は捜査対象を武達よりも詳しく調べられると同時に、それだけ危険が伴う可能性も高まっている。今までならパスカルが姿を消して校内に潜り込むことは出来たが、相手がサマナーかもしれない……つまり悪魔の姿を見ることが出来るなら、発見された時厄介なことになる。ソレを懸念しているのだ。
「……ピクシー、お前二人についてやってくれ」
「はい?」
不意に名前を呼ばれ、ピクシーが生返事を返す。
「いざという時に、お前が助けてやれるようにさ。たまきと「仮契約」を結べば彼女のCOMPに入れるだろ?」
通常、デビルサマナーは契約した「仲魔」をCOMPに収め召喚などを行う。ピクシーは武の仲魔として武と契約を結んでいるが、他のサマナーと「仮契約」を結ぶことで一時的に仲魔を預けることが出来る……ようは「レンタル」出来るようになるのだ。
「いいの探偵さん! やった、これでデビルサマナーらしくなってきたぞぉ!」
「たまき……オジサンから借りるだけなんだからね。ピクシー、それでいいの?」
念のため、由美が本人に確認を取る。ピクシーはニコリと笑ってそれに答えた。
「うん。仮契約だし、たまきならいいよ。たまきー、コンゴトモヨロシク、だよー!」
「うん、コンゴトモヨロシクー!」
性格が似ているからなのか、二人の仲は良好。仮契約に何の支障もなかった。たまきはまだ貰い受けてから1日しか経過していないアームターミナル型のCOMPを装着し、指一本で慎重に操作を始める。この調子で「いざ」という時にちゃんとピクシーを呼び出せるのか不安だが、むしろ今のうちにCOMPの操作に慣れる意味でも、ピクシーとの仮契約はたまきにとって重要なことだ。
「これで良しっと……うん、これで明日から「物置」の調査も出来そうだね」
「物置?」
突然告げられた単語を、由美はたまきに聞き返した。
「あれ、言わなかったっけ? 例のメールで集まった噂……最近、物置から「変な声」が聞こえるんだって」
悪魔という単語に引き寄せられ集まったメール。その中に、校内にある物置にまつわる噂が最も多かったのだとたまきは説明しだした。
「子供っぽい声だったとか、女の子の笑い声だとか……「変な声がする」っていう噂は一緒なんだけど、聞いた「声」が色々なのよ。あんまり悪魔っぽくないけど、調べてみてもいいかなって思って」
他にもいくつか悪魔……というよりは「学校の怪談」のような噂があり、件数の多い物を調べたいとたまきは言う。
「あのディスクは佐藤部長の返事待ちだし、狭間君や赤根沢さんを調べるにしても直接声かけられないでしょ? 聞き込みも慎重にやらないと変な噂が立っちゃうし……だったら色々状況見ながら調べられるのからやっちゃおうよ」
行動派のたまきだが、なにも考え無しに行動しているわけではない。彼女なりの行動判断があっての捜査。デビルサマナーとしての適正は未知数だが、探偵としての適正は確かに高いのだと改めて思い知らされる。
「そうね……捜査の方法はたまきに任せるわ」
側にいないと危なっかしいのは確かだが、捜査の指針は任せきって大丈夫だろう。由美は今日一日たまきの行動を見守る中で、彼女への信頼を大きく積み重ねていた。
「うん、任せて!」
ニパッと笑うたまき。このあどけなさに同性ながら安らぎを感じてしまう由美。人を惹き付けるだけの魅力もまた、探偵としての、サマナーとしての適正能力なのだろう。
「……こっちは外堀を埋める作業を続けるか。とりあえず狭間と赤根沢の身辺調査……それから、ベスが持ち帰ったメールアドレスの照合作業か」
メールアドレスを持ち帰っても、そのアドレスが誰の物なのか……判るのは登録してあった名前だけ。自殺した生徒が送りつけたメールに反応を返した者が誰なのか、その特定のために武はたまきから在学生のメールアドレス一覧を受け取っていた。個人情報の流失甚だしいが、コレはやむを得ない処置と割り切るしかない。良くも悪くも、これだって探偵の「手法」なのだから。
「次の被害を出さないためにも……な」
被害を最小限に喰い留めるため……武は自分に、言い聞かせるよう呟いた。
「よし、とりあえず今日はコレでお開きにしよう。各自明日からも捜査頑張ってくれ」
解散を宣言したが、武も由美達もそのままベスの入れてくれた紅茶を飲みながらくつろいでいた。そもそも食事をしながらの捜査会議だったのだ、食後の一服も必要だろう。
「今日は帰るんでしょ? たまき」
「うん。とりあえずコレの操作を覚えないとね」
たまきは装着したままのアームターミナルを由美に見せながらこれからの予定を話し出す。
「おっきいだけに機能もいっぱいあるから……ピクシーちゃんがいてくれるから召喚の操作も試せるし」
言いながらCOMPをいじり始めるたまき。今まで扱ったこともない機器に興味津々といってその様子は、オモチャを与えられた子供のソレと大差ない。
「あっ、そういえばたまきと仮契約したってことは……しばらくタケルとお別れ?」
たまきの側で彼女のCOMPを眺めていたピクシーが、振り返りながら本来の主に確認を取る。
「まあそうなるな……だけどちゃんとマグネタイトも多めにたまきちゃんのCOMPに入れとくから、心配するな」
ピクシーが武と離れても大丈夫なように、彼女が日々消費するマグネタイトを大量に渡す。それは当然の準備だが、問題は「そこ」ではない。
「ってことは、タケルといつものセッ、もご!」
何かを言いかけたピクシーは、その口を不意に塞がれた。
「あらごめんなさいピクシー」
塞いだのはベスが手に持つ台ふき。謝罪する言葉とは裏腹に、普段の彼女からは想像も出来ないほどの「圧力」が視線を通してピクシーに向けられる。
「……判ってるわよベスぅ」
滅多に見せない顔を向けられ、流石のピクシーも大人しく「無言の圧力」に従った。
「何の話?」
「なぁんか隠してるよね……この前もそうだったし」
年頃の女子二人が抱く疑問に、ただただ微笑むベスと乾いた笑いで誤魔化す武。問題発言を言いかけたピクシーは素知らぬ顔で口笛を吹くという判りやすい反応。由美でなくとも何かあると思って当然だが、これ以上の追求も出来ない。秘密を探るのが探偵の仕事だが、自分達の秘密を守る術はまだまだ心得ていないようだ。
薄暗い部屋の中央に、玉座が一つ置かれていた。玉座がある以上、ここは王の間か? しかし現代日本にそのような部屋があるはずもない。そもそも玉座の有無だけで部屋の名前が決まるわけでもない……まして、この部屋には玉座以外に一切の家具も装飾品も調度品も、部屋を照らす明かりも、窓も、出入りするためには必要不可欠な扉すらない。ここを「部屋」と定義すること自体疑わしい。どのようにしてこの空間に玉座が運び込まれたのか……皆目見当もつかない。
玉座だけでも不可思議だというのに、その座には一人の少年が足を組み腰掛けている。彼はどうやってこの空間に入り込んだのか? 彼だけではない、彼の前に片膝を突き畏まっている少女も、彼の斜め後方に立つ何者かも、いかようにしてここへ……あらゆる存在が、そこに存在していること自体不思議でならない。だが彼らは何一つ気にしている様子を見せていない。
異様なのは、空間同様三人の出で立ちもある。少女はごく普通の制服……軽子坂高校の制服を身にまとってる。ごく普通の格好をしている少女に対し、少年も制服姿……しかし全身を白で統一した、特注品の制服だ。校則が緩い軽子坂高校では、生徒が思い思いの「手直し」を制服に施しファッションを楽しんでいるが、彼のようなあからさまに全く違う制服を着てくる生徒はいない。空間同様、少年の服装は異様だと言い切れる。しかしそんな少年よりも異様なのは、彼の後方に控える人ならざる者。そもそも、何処を見ても人らしき物が見当たらないこの者を一言で言い表すのが難しい……いや難しいからこそ「悪魔」としか形容できない。
「ふん……あの二人がね」
肘掛けに右肘を突き、その右腕で顔を支え、少女の報告を鼻で笑った少年。つまらなそうとも愉快そうとも、どう捉えるにも難しいが……少年は口元をつり上げた。
「人の世とは、かも狭き物よな……よもや、貴殿のような異能者が他にもまだおったとは」
玉座の後ろに控えていた者……人ならざる者がクチバシを動かす。抑揚のない話し方故に、この人ならざる者……悪魔が、話題になっている二人に対しどのような感情を抱いたのかはいまいち掴めない。ただその言葉を聞いた少年は面白くなかったのだろう。振り返ることなく後方の悪魔に対し手で払いのけるような仕草を見せた。
「まあ良かろう……貴殿に呼ばれ契約を結んだ以上、命に従うまで。それだけだ」
フクロウの顔が言葉を紡ぎ、腕のように組んでいたオオカミの前足を解く。そして蛇の半身が波打ち、静かに後方へと下がり……闇の中へと消えていった。
「下らんことをベラベラと……私と同じ異能者だと? バカな。私と同じではない。ちょっと「力」が使えるだけで……下らん」
苛立ちを隠さず、少年はコンコンと肘掛けを指で突き始めた。
「玲子……私は誰だ? 言ってみろ」
少年は頭を下げ続けている少女に問う。玲子と呼ばれた少女は頭を上げることなくそのまま少年の問いに答える。
「魔界を統べ、人間界を支配する魔神皇(まじんのう)様にございます」
少女の答えに気を良くしたのか、魔神皇と呼ばれた少年は笑みをこぼし背もたれに深く身体を預け背を反り返らせた。
「そうだ、私は魔界も人間界も支配する魔神皇となる男だ! そんな私と、低能なアイツらとが同じだと? あり得ん、あり得んのだ!」
少年の声高な主張に、少女はその通りですと更に頭を下げる。
「ふん……まあいい。その二人は放っておけ。どうせ大したことも出来まい」
はい、と少女が頭を下げたまま返事を返す。それきり、しばし沈黙が場を支配した。玉座と二人の人間だけが存在する空間……静寂がむしろキンと音を立てそうな、静けさだけが漂う。
「……だが報告はご苦労だった。褒美をやろうではないか、何が欲しい?」
少年はそう問いかけながら、組んでいた足を解き大きく開いた。その仕草が意味するもの……少女は決まり切った答えを口にする。
「……よろしければ、魔神皇様の寵愛を頂きとうございます」
言葉の意味をそのまま受け取るならば、可愛がって欲しいということになる。だがもちろん、ただ愛でて欲しいという可愛げのある答えではない。少年が少女に「言わせた」言葉……その言葉が紡ぎ出された瞬間、二人は男と女になる。
「売女が。下らん報告のみで俺様の寵愛を受けられるとでも思ったか?」
さも少女から願い出たかのような物言いだが、彼が「褒美」と口にした瞬間から、「彼が」何を求めているのかはもう決まり切っている。暗黙の了解を、ただ少女が儀式のように繋いだだけ……さも「少女が」求めているかのように演出しているにすぎない。他に誰もいない、いることを許されない空間で、それでも少年は自分から願い出ることはない。それが彼の、絶対的なプライドだった。
「浅ましい私をお許し下さい。どうか、どうか魔神皇様の寵愛を……」
すがるように強請る少女。彼女には言葉ほど寵愛に執着はない。それでも食い下がるのは、そうして欲しいと少年が願っているからだ。彼のプライドを傷つけないよう配慮するのが、少女の「役割」だから。
「まあいい……そこまで言うならくれてやる。ほら、好きにしろ」
広げた脚を更に広げ、少年は待ちわびる。少女に寵愛を与える……そんな名目で与えられる、少女からの寵愛を。
ありがとうございますと呟くように少女が礼を述べ、頭を下げた低姿勢のまま膝を着きながら玉座へと近づく。少年の足下にたどり着いた少女は失礼しますと口にしながら開かれた脚の中央にあるジッパーをゆっくり下ろしていく。下ろされていくにしたがい内側から外へと飛び出そうとする「物」がある。少女はそれを手で押さえながら急に飛び出さないよう注意を払った。そしてゆっくりと手を離していき、いきり起つ肉棒がその姿を現した。
「ああ、いつ見ても魔神皇様の「物」は……雄々しく立派でございます」
余裕の態度をとり続けていた少年はしかし、興奮し待ちきれなかったのがこの肉棒を見るだけでもよく判る。既にガチガチに硬くなった肉棒はそれでも「全身」をさらけ出しているわけではなく、幾分か分厚い「皮」でカリ首の周囲は保護されていた。
「では、失礼します」
少女はゆっくりと肉棒を握り、丁寧に擦り出す。その度に皮が亀頭を覆ったりカリ首まで露出したりを繰り返す。動作を続けながら少女は空いた手で肉棒の下をまさぐり、睾丸を露出させていく。そのまま少女は睾丸を優しく握り、揉み始めた。
ゆるゆるとじわじわと、むず痒い快楽が股間からせり上がってくる。その心地好さに少年は感情を高ぶらせていたが、少女を見下ろしながら鼻で笑ってみせた。そんな態度をチラリと上目遣いで確認した少女は、肉棒へ唇を近づけていく。自分からは絶対に求めない、強請らない、そんな強情な少年の態度一つ一つを、少女は少年以上に理解していた。
まずは軽く接吻。柔らかい唇と硬くなった鈴口が触れ合う。余裕を演じている少年とは違い、彼の息子は正直に接吻の悦びをピクリと示した。二度三度、少女はついばむように接吻を繰り返すと、唇で亀頭を甘噛みするように優しく包み込む。まるでアイスキャンディをなめるようにゆっくりと唇を閉じながら亀頭を刺激し、肉棒から唇を離す。そしてまた唇で優しく甘噛みし……これもまた少女は何度か繰り返した。
「……好き者め」
肉棒を味わうかのような、少女の愛撫。心地好いが、故に更なる刺激を心身が求め始める。焦らされている少年は待ちきれずにいたが、そう口に出すことはしない。代わりに口から出た言葉は罵倒。少女はその言葉が催促であると判断し、一気に肉棒を口内へと含めていった。
まずは肉棒を握る手を下へ引っ張り、皮をカリ首からズリ落とす。そして剥けたカリ首を口に含めたまま舌で丁寧に舐め回していく。普段皮で覆われているカリ首は刺激に敏感で、舐める度に肉棒全体が何度も跳ねる。それでも少女は何事もないかのようにシッカリと肉棒を握り固定させ、カリ首の付け根にピタリと舌の表面を貼り合わせ左右に撫でるよう動かしていく。
少年の手が、少女の後頭部に触れる。むろん、愛でるために撫でているわけではない。焦らされ続けていることに耐えきれなくなっているが、かといって強引に少女の頭を抑えイラマチオを始めてしまえば我慢できなくなっていることが悟られる……しかし実際、我慢の限界。その葛藤が自然と手を動かしているにすぎない。あくまで、少年は少女に「褒美を与えている側」であって、少女が美味たる肉棒を味わっている……そういう「てい」なのだ。
ギリギリまで焦らす……それが少女なりの愛し方だった。このような形で褒美を貰う……愛撫を求められるのは既に日常。幾度も経験を重ねていく内に、少年は……本人が自覚しているかは別として……焦らされる方が好みのようだと少女は確信していた。態度こそ傍若無人に振る舞っているが、その態度、彼のプライドを崩さぬまま「攻められる」方が、少年は快感を高ぶらせやすいのだ。
少女は少年の手が添えられたことで、更に次のステップへと進めた。ゆっくりと唇を肉棒の根本まで進め、そしてまたゆっくりと引き戻していく。カリ首を過ぎたところで又動きを止め、ゆっくりと前進……少しずつ少しずつ動きを早めながら、少女は少年の悦楽をどんどん引き出していった。チラリと上目遣いで時折少年の表情を確認し、限界の頂点を見極めながら。また少年は少女が時折見上げるその表情、その仕草に性的な興奮を何度も感じているのだが、見上げてくる度にそんな心情や快楽の限界を悟られぬよう口元をつり上げ笑って見せている。
「……ほら、褒美だ!」
褒美を与える、その名目で少年は両手で少女の頭をグッと押さえつけた。少女の喉に直接、少年からの白濁した褒美が注がれていく。軽く咽せながらも、少女は喉を鳴らしながら褒美を飲み込んでいった。
「ああ、こんなに沢山……ありがとうございます、魔神皇様」
飲みきれずに溢れた白濁液を溢れぬよう手で受け止め、それをまた舌で舐め取っていく。少女は別に精液がそれほど好きなわけでもないが、好きであるかのように演出すれば少年が喜ぶ……その為に、彼女は痴女を演じ続けた。
「後始末をさせていただきます」
肉棒にこびり付いた精液を舐め取り綺麗にする。少女の言動は表向きそのような意味がある。しかし少年は、少しでも精液を味わおうとする淫乱な女だと少女を見下していた。一方で少女には、もっと別の目的がある。
「いつまで舐めてるつもりだ、雌豚が」
罵倒しながらも、無理に引き離そうとはしない少年。その理由は、すぐに又硬直し膨張した彼の肉棒が示した通りだ。
「申し訳ありません魔神皇様……この端た女、我慢できそうにありません」
少女はゆっくりと起ち上がり、そして制服のスカートをたくし上げていく。少女の健康的な脚が徐々に露出していき、そして露わになる恥丘……少女は下着を着用していなかった。薄い陰毛がほんの僅か濡れているのが、少年からも見て取れる。
「魔神皇様のを舐めさせて頂き、ご褒美を頂戴し、私の身体が疼いてしまいました。今一度、今一度魔神皇様の寵愛を賜れればと……」
テクニックこそ経験で磨いてきた少女だが、フェラチオで感じるほど少女の身体は出来上がっていない。それでも少女が股間を濡らしたのは、少年に奉仕しているという行為と、そして下着を身につけずにいたことによる恥辱……言うなれば、彼女もまたマゾなのだ。
「好きにしろ」
少女から願い出た言葉であり、少年が望んでいたわけではない……ぶっきらぼうに返答しながら、少年は肉棒をガチガチに起立させていた。感じやすい彼の肉棒は、はてた後に行われた愛撫によって既に回復していた。
「失礼します、魔神皇様」
少女は非礼を詫びながら少年に近づき、少年の座る玉座に両膝を乗せていく。玉座だけに横幅が広くなっているが、二人の青少年を乗せるにはギリギリのサイズだ。それでもどうにか少女は少年の上にまたがるような形で玉座の上に膝立ちした。
「魔神皇様の逞しいご褒美、頂戴いたします……」
ポーカーフェイスを気取る表情とは裏腹に、既にビクンと触っただけで脈打つ肉棒。少女はその肉棒をそっと掴みながら、ゆっくりと腰を落としていく。
「んっ、あぁあああ!」
ズブズブと、少女の中へと導かれる少年。自身の皮で覆われていた亀頭が他人の膣によって包まれていく。
「ん……ん、あ、ん、あ、あん!」
狭い場所での性交。故にあまり激しく動くことが出来ないが、少女は腰を上下、前後、左右にと、あらゆる方向にかき回しながら喘ぎだした。不規則な腰の動きに合わせグチュグチュと結合部から湿った音が聞こえてくる。少女はその音に負けぬよう、喘ぎ続ける。喘ぐことを恥じらうよりも、淫乱に喘ぐ姿を見せた方が少年を悦ばせることが出来るから。
「ま、魔神皇、様、ん、あっ! い、魔神皇様、の、これ、ご、ご褒美、きもち、いい、です、あ、んぁあ!」
気持ち良いのはなにも少女だけではない。肉棒を振り回されながら膣でしごかれ擦られ、すぐにでも果ててしまいそうなほどの快楽が少年の全身を駆け巡る。まるで電気椅子に腰掛けているかのように、ビリビリと全身を震わせる快感が少年を襲っていた。
動物的本能と言うべきか、少年は我慢ならず少女を抱きしめ激しく腰を振りたい衝動に何度も何度も襲われている。だが少年は耐えた。この快楽を出来る限り長く継続させるために……いや違う。少年のプライドが、本能を押さえ込んでいた。この行為はあくまで少女が求めたものであり、自身が求めたものではない。与えた褒美なのだから……少女の太股に邪魔されうまく届かない肘掛けに、それでも懸命に手を伸ばして力強く握りしめ耐えている。
「ああ、魔神皇様、魔神皇様ぁ!」
少年の頭を抱え込み、胸元へ抱き寄せる少女。少年のやせ我慢ごと、少女が抱擁した。制服を着たままであるため制服のボタンが少年の顔に当たるのだが、それを咎めることはしない……そんな余裕が少年にあるはずもない。
「……ほら、くれてやるぞ!」
少年が少女の胸元で吼える。刹那、白濁した褒美が再び少女の体内へと放出されていく。
「ああ、魔神皇様……」
腰の動きを止め、少女は少年の吐き出された欲望を受け止めていく。
「……もういいだろう、どけ!」
余韻を楽しむ猶予もなく、少年は……魔神皇は、配下に退くよう命令を下す。
おずおずと玲子は魔神皇の上から腰を上げる。溢れ落ちる精液が魔神皇の脚にかからぬよう手で自分の股間を押さえながら玉座の上から降りると、すぐに片膝を曲げ頭を垂れる。
「……あの二人のことは後回しにして、お前はマグネタイトを「あいつら」から搾り取る手立てを整えておけ。いいな?」
「仰せのままに、魔神皇様」
魔神皇は玉座から降りるとすぐにきびすを返し、闇の中へと消えていった。高揚し荒げた息を悟られぬようにと……。
一人取り残された少女は、しばらくそのままの姿勢を保っていた。が、グチュグチュと湿った音が少女から漏れ出していた。
「……偉出夫……」
呼ぶことを許されない名前を呟き、少女は残った片膝も床に付けた。そしていつの間にか両手が股間に伸びている。
「んっ……あ、ん!」
誰にも届かない喘ぎ声。誰に聞かせるわけでもない喘ぎ声。一方的に吐き出された、白く濁った快楽の痕跡……欲望で汚れた少女の手は、自身に残った欲望のくすぶりを焚き付ける燃料へと昇華していく。
ただ相手を満足させるためのテクニックを駆使して、何もしてくれないプライドの塊を満足させる。彼女に残るのは、中途半端に高ぶった淫欲。それでも彼女は少年を満足させ、その後で一人自分を満足させる。それが日常になって……どれほどの月日が流れただろう?
そしてどれほどこんな日々が続くのだろうか?
事の善し悪しではない……少年が、狭間偉出夫が、満足するかどうか……それが少女の、赤根沢玲子の、全てだった。少なくとも、彼女はそう自分に言い聞かせていた……火照る身体を持て余しながら。
そして、「日常」はまた一日、幕を下ろしていく。