第1話 分岐点

 人生には、多くの分岐点が存在する。
 人はそれを理解しつつも、実感することはほとんど無い。有るとすれば、過去を振り返った時だろうか。あの時こうしていればという、後悔にも似た感触として実感するのが普通だろう。
 そして今、彼は間違いなく人生の分岐点に起たされている……それを「肌」で実感していた。思考的に感じていたかは疑わしいが、彼がこの人生最大の分岐点を掌に乗せながら分岐の選択に迫られているのは確か。故にか、彼は激しく動揺していた。
 どうしよう。その言葉ばかりが、思惑と感情を何度も往復している。自分が今とんでもない状況に巻き込まれているのを自覚しながらも、しかしその先の答えを全く見出せずに戸惑っている。無理もない。こんなこと、経験できる人間がどれほどいる? まだ四半世紀ほどしか人生を経験していない彼は当然、一世紀を生き抜いた人間にすら、こんな経験はしたことがないだろう。だからこそ、未来への答えが全く思い浮かばなくても当然だとしか言い様がない。言い様がないのは確かだが、しかし彼は決断しなければならない。
 今両手に乗せている小さな小さな少女……苦しそうに呼吸を荒げる、半透明の羽根を生やしたこの少女をどうすべきか。彼の決断は急を要している。
 最初はほんの好奇心だった。何の気無しに歩いていた彼が公園に植えられてているアジサイの茂みの中でこの少女を見かけた時は、女の子向けの人形かあるいはマニアックなフィギュアかと思ったのだ。幼女向けの人形にしては出来が良すぎるその人型に興味を持つくらいなら、誰にでもあることだろう。しかしその好奇心が手を伸ばすという動作へと導いてしまう人は、ある程度限られるだろう。けして彼に「その手」の趣味があるわけではないが、興味があったのは確か。その事がまず、彼の「運命」その分岐を一つ決定づけた。
 手にとって判る、あまりにもリアルな出来栄え。危うく握りつぶしてしまいそうな柔らかさは、フィギュアの一言で片付けるにはあまりに説明が足りない。何よりこのフィギュアは、あからさまに息をしていた。それも苦しそうにだ。何だ? という疑問が沸き立ち、そしてジワジワと湧き水のように「どうしよう」という疑問があふれ出て、今彼の思考を埋め尽くしている。
 生きている。彼はまずそう結論づけた。そして今、死にかけている。ここまでなんとか答えを導き出した。その答えにたどり着くまでも長い「一時」を感じていたが、そこから更に彼は刹那という永遠を思考という荒波にのまれながら過ごしている。
 何者なのか? またこの疑問が出てくる。その答えを導き出さないことには先へ進めそうにないからだ。とりあえず……人ではない。それはそうだろう。掌サイズの生きた人間なんてこの世にいるはずがない。容姿は限りなく人間の女性に近く青いレオタードのような服まで着ているが、サイズがあまりにも小さい。よしんば身長を問題にしないとしてもだ、背中から生えているトンボのような羽根をどう説明する? 間違いなく、この少女……いやそもそも少女なのか? レオタードのような服だけでなく、この生物は脚にニーソックス、そして腕にも関節よりも長い手袋をしている。露出は少ないが肩や太股は露わになっており、服装だけを見ればとてもセクシーな出で立ち。胸も、少なくとも「少女」と呼ぶには豊かすぎた……ともかく、この小さな女性型生物は人間ではない。見ただけで判るだろう単純なこの答えに思考が導かれるまで、彼は「一時」という短くも長い時間を要した。
 だが過ぎた時間は彼に冷静さも与えてくれた。僅かながら落ち着きだした彼は、掌の小人が死にかけていることをもう一度確認し、助けなければとまた思考の海へと潜っていった。この時、彼は小人を投げ出さなかった……得体の知れない物を投げ出すことなく、助けようと迷わず判断した事がまた分岐の一つを決定づけた訳だが……今の彼はそれどころではなかった。
 助けようと決断したにもかかわらず、やはり彼は戸惑った。どうすれば助けられるのか、その答えが見つからない。助けを呼ぶか? もし普通に女性が倒れているところに遭遇したのなら彼もそうしただろう。しかし今助けを必要としているのは人間ではない。何か、何故か、彼はこの小人を他の人の目に触れさせてはならないと直感した。これもまた大きな分岐点だったのだが、直感に対し分岐だったと指摘したところで意味はないだろう。そもそも人生の分岐は、指摘したところでもう選択済みであるケースが多く、コレもその一つなのだから。
 さて助けも呼べぬこの状況で、かの小人を助けるにはどうすれば良いか? どうしようどうしようと逸る自分を落ち着け落ち着けと抑えながら、彼は居ても立ってもいられず走り出していた。場所は……考えるまでもなかった。どうしようどうしようと混乱する思考をよそに、足は勝手に動き出していたのだから。
 足先が向いているのは帰路。帰宅の途中だった彼は、慌てながらも真っ直ぐに自宅を目指していた。

「どうすんだよ……」
 適当につかみ取ったタオルを座卓の上に敷き、その上へ小人を寝かせてから、彼は一言呟いた。パニックになりながらも小人を持ち帰ってしまった彼ではあったが、この先どうすべきか考えがあったわけではない。考えるよりも先に行動していたに過ぎない。今更ながら、何故こんな事をと自分の「分岐点」を振り返っても答えが出るはずもない。ともかく前へ、無意識に選んだ分岐に従い、彼は小人を助けるためにどうすべきかを考える。
「ハァ、ハァ……ん、あ……」
「えっ!?」
 寝返りを打つ小人に、彼は驚きの声を上げてしまった。息を荒げてはいたが、意識があったかまで確認する余裕は無かった彼であったが、ようやく小人の様態を詳しく観察するだけの平常心は僅かに取り戻していた。
「おっ、おい……大丈夫……なのか?」
 遠慮がちに尋ねるも、返ってくるのは息遣いだけ。それでも彼は呼びかけを続けた。それしか考えられる方法がなかったから。
「なぁ、どうして欲しい? な、どうすれば良いんだよ」
 苦しんでる者に対してする質問ではないが、他に何も考えられないのだ。しかしこのままでは埒があかないと自覚したのか、また彼は考え始めた。
 もしも、この小人が人間なら……どうする? 彼は落ち着けと自分に言い聞かせながら小人を人間と想定して対処方法を模索し始めた。
 まずは……服を脱がす? 真っ先にその発想に行き着いた自分を罵るところから模索は始まった。
 罵ってはみたが、それしかまず思いつかない。服を脱がせた後で目を覚まされ、そして慌てて言い訳を口にする自分の滑稽な姿まで瞬時にイメージしてしまったのは、間違いなくアニメの見過ぎ、ゲームのやり過ぎに他ならない。そもそもそんな「お約束」な展開に自分が遭遇するとは思ってもいなかったし、仮に経験があったとしても……どうする? 相手は人間ではなく小人……服を脱がせられるのか? 彼は誤った方向へ思考を巡らせてしまった。
 苦しそうにしている以上、服を脱がせるのは選択肢の一つとしてあるにはあるだろう。しかし小さいうえに密着したこのレオタードのような服を脱がせるのはとても困難だろう。ピンセットか何かで器用に脱がせるか? 相手がただのフィギュアならまだしも、生身である以上無理をして傷つけたくはないと彼は躊躇した。
 他に方法はないか……思案した彼が次に思いついたのは、水を飲ませること。何故先にそちらが思いつかないと自分を罵倒しながら彼は慌ててコップに水をくんでくる。そして自分でその水を口に含み、そして小人に視線を戻してから……水を飲み込み、また自分を罵った。
 なに口移しで飲ませようとしてんだよ。その前にどうやって口移しとか……頭を掻きむしりながら、彼はその手の発想にしか行き当たらない自分を呪った。
 だが水を飲ませるのは間違っていない。彼は更にそこから思案を再開し……ミルクとストローを思い浮かべる。弱ったアライグマにミルクを与える、そんなシーンを見た覚えがある……彼は早速買い置きの牛乳を別のコップに注ぎ、そしてコンビニの店員が勝手に入れる為に給っていくストローを一つ取りだし、慌てて小人の元へと戻った。
 コップに入った牛乳にストローを入れ、軽くそれを吸う。そしてすぐに吸い口を指で塞ぎ、ストローの中に牛乳を貯める。貯めた牛乳を小人に飲ませるため、ストローの先を小人の顔へと近づけた。
「あっ!」
 指を離す加減を間違え、牛乳を小人の顔一杯にかけてしまった彼は思わず声を上げてしまう。慌てて拭き取ろうと近くのティッシュ箱を引き寄せ一枚取り出すが、拭き取ろうにもまた加減を間違え顔を潰してしまわないか心配になり、彼はそのまま様子を見ることに決めた。
「ん……」
 突然顔に牛乳を掛けられたからか、小人はまた声を出し身体をよじる。そして無意識なのか、顔にかかった牛乳を舌で舐め取り始めた。
 まずはこれでどうにかなったかな……彼は大きく安堵の息を吐き出した。
 そして小人の様子を見つめながら……
「ああもう!」
 彼は頭をまた激しく掻きむしりながら、思い浮かべてしまったイメージを必死に振り払った。女性の顔一杯に掛かる白い液体……この緊急時に何を妄想しているのかと、彼は自分に小一時間問い詰めたかった。
「ん……あ、ふぁ?」
「あっ……き、気がついた?」
 まだか弱い声ながら、明らかに意識を取り戻した譫言。邪念を振り払いながら、彼は小人に再び問いかけた。
「……なに? アンタ……誰?」
「誰って言われても……こっちも聞きたいんだけど」
 得体の知れない小人に彼は尋ね返す。
「人間……なの?」
「まあ一応……君は違う……よね?」
 お互いに判りきったことを尋ねているのだが、しかしお互いに確認せずにはいられなかった。小人は状況を、そして彼は小人が何者なのかを。
「ん、なにコレ……ミルク?」
 顔に掛かった牛乳を拳で拭い、それをチロチロと舐め始めた小人。
「あ、うん……どうしていいかわかんなくて……でも良かった、目を覚ましてくれて……」
 得体の知れない生物を相手に平然とコンタクトを取っている。冷静に考えればとんでもない状況なのだが、安堵と混乱が彼に妙な落ち着きを与えていた。
「あっ、そうか。私お腹が空いてて……」
 腹が減っていた、つまりは行き倒れ。お約束といえばお約束、だがこの豊かな日本ではそうお目にかかれるシチュエーションではないのだが……そうなんだと、彼は落ち着いてその事実を平然と受け入れた。とはいえ、彼女が何者なのか……その存在はとうに受け入れてしまっていた彼だったが、疑問はまだ解消されていない。
「ねぇ……マグネタイト譲ってくれない?」
「は?」
 聞き慣れない単語に、彼は思わず目を見開いて間抜けな声を上げてしまう。まずは何者なのかを問いただしたかったのに、その相手から更に謎の言葉が紡ぎ出されてしまった。
「何それ?」
 彼女の正体よりもまず、尋ねられたその物について問いただす。名前からして何かの鉱物なのだろうかと、ぼんやりとしたイメージを思い浮かべながら。
「何って言われても……マグネタイトはマグネタイト。マグとか言わない?」
 言うかどうかの前にそれが何なのかが全く判らない。彼は眉をひそめ首をかしげてしまう。
「ああもういいわ。わかんないなら直接貰うから」
 そう言い放つと小人は起き上がり、そして羽根を羽ばたかせる。
「え、うぉ! う、浮いてる!」
 羽根があるのだから飛んでも不思議ではないが、先ほどまでぐったりとしていた小人の様子しか頭になかった彼にしてみれば、飛ぶということが想定外だったようだ。畳の上に座り込んでいた彼は驚き後ろへ身体を反らす。飛び上がった小人は引けた彼の腰に着地する。そしてあろうことか、彼のズボンをまさぐり始めた。
「ん、ちょと、ぼけっとしてないで自分で開けてよ」
「なっ……なにを?」
 尋ね返してみたが、彼には何となく予想は付いている。だが……本当に? 流石の彼も、自分の予測を疑った。先ほどまでも何度かしてしまった淫らな想像が妙な予測を導いているのかと疑問を持たざるを得なかった。
「ここ。ほら早く出してよ。アンタの」
「出してって……いや、マジで?」
 小さな手でさすっているのはズボンのチャック。その下にある物は……それを出せと? 彼は自分の淫らな予測が的中しているのを理解しながらも尚、その予測に疑問を抱き続ける。
「いいから早く! もう、私お腹空いてるんだから! このままじゃ死んじゃうよ!」
 とても死にそうな様子はないが……しかし先ほどまで死にかけていたのは事実。それはそれとしても、空腹を満たすのと「これ」との関係が……彼は当然、その関係を結びつける想像をしているのだが、やはりその想像に疑問を感じている。
 そんな事が本当にあるのか?
 だが彼は理解し切れていない。そもそもこのような小人がこの世にいるという、目の前の現実を。その点だけでも既に常識を逸脱しているのだ。淫らな想像があまりにも非現実的であっても、もはや彼女の存在と行動が全てを物語っているのに。それでも……彼の理性なのか、それともついて行けない思考なのか、彼を次の段階へ進めることを躊躇わせていた。
「ああもうじれったいなぁ! この、ほら、んっ、しょ!」
 ジリジリと下げられるジッパー。そして内側から外へ出ようとする陰部。疑問を抱きながらも、彼の陰部は淫らな想像に反応し膨張し始めていた。
「もうちょっと……。ん、しょ! もう、なんでもったいつけるかなぁ……」
 焦らしているつもりはない。あくまで結果そうなっただけ。しかしこうなってはもう何を言おうが言い訳にしかならず、彼は小人のされるがままに陰茎を全て露出させてしまった。
「うわ、おっきいわね……こんなんなんだ。私人間のって初めて見るけど、こんなに大きいんだ」
 いくつか指摘すべき言葉があるのだが、その事を問い詰める余裕が彼にあるはずはない。膨張した陰茎を、得体の知れぬ小人とはいえ他人、しかも女性に見られ、あろうことかその陰茎を弄られている……恥ずかしさと興奮とが入り交じり、息を荒げながらされるがままに見守ることしか出来ないでいる。
「すごく硬いね。こんなになるんだ……ほら、早く出してよ」
「出してって……いや、そんな事言われてもさ……」
 小人の彼女は直立し硬直した陰茎を揺すりながら強請っている。何を出して欲しいのか、直接言われずとも彼だってあらかた予測は付いている。その予測通りだとしても、やはり戸惑うしかないだろう。予測通りのものを出すとすれば、それ相応の準備と「行動」が必要になる。それらを一切行ってもいない状況ですぐに出せとはあまりにも乱暴な物言いだ。先ほど掛けてしまったミルクのように、手軽な物ではないのだから。
「もうなによ。人間の男って出すと気持ち良いんでしょ? だったら出しちゃってよ。ね、それ無いと私死んじゃうんだからさ!」
 この小人が射精を望み精子を強請っているのはもう明白。だがその過程となる行為については全く無知なようだ。それもおかしな話なのだが、そもそも精子を欲しがり射精を望み、それが無いと死ぬと言いだし……根本から問いただすなら、小人の存在そのものが彼にとっては謎だらけなのだ。それらの事情を理路整然と理解するなど、聖人君子でもなければ無理だろう。そして残念なことに、彼は聖人君子とはほど遠い男だった。
 だが一つ幸運だったのは、彼は聖人君子でない代わりに、通常の男性よりもスケベだった。普通ならば、どんなに愛らしくても羽の生えた人形サイズの女性が現れれば気味が悪いと追い払うなり逃げ出すなりするだろう。よしんば彼女の存在を受け入れたとしても、こんなことをされれば驚いて小人を振り払うか止めるよう言いつけるだろう。力の差は見た目通り歴然だし、抵抗する気ならば確実に止められるはず。にもかかわらず、彼はそうしなかった。何故か? もう一度言おう。彼は人よりもスケベだからだ。
「あの、さ……それじゃいくら何でも無理だよ」
「へ?」
 何が? と不思議そうに見上げる小人。彼は色々と観念し、そして色々と欲情してしまった自分をさげすみながら、湧き上がったその欲情に逆らうことを止めた。そう決めたとたん、自分の陰茎にしがみつく愛らしい小人が魅力的に見え始め、その興奮が陰茎へと伝わってしまう。
「きゃっ!」
「あ、ごめん……」
 伝わった興奮はビクリと陰茎に力を込めてしまう。突然の振動に、陰茎にしがみついていた小人が揺さぶられ転倒してしまう。
「ちょっ、なにすんのよ!」
「悪い悪い……あのさ、俺の……精子が欲しいんだよね?」
「精子? よくわかんないけど、私はマグネタイトが欲しいの」
 覚悟を決めて言ったのに、違うと言われては立つ瀬がない。彼の中から気恥ずかしさがこみ上げてくる。
「そこから出るのにたっぷりマグネタイトがあるんだって。だからたぶんそれ」
 どうやら互いの認識に相違があるようだと彼は気付いた。精子の中にマグネタイトという成分があるなどとは初耳だが、詳しいわけでもない彼はそこを深く考えることはなかった。むろんマグネタイトというものがなんなのかは判らないままだが。
「じゃあたぶん良いんだな……あのさ、ここから君の欲しいのを出すにはね、色々と、その……しなきゃいけないことがあるんだよ」
「しなきゃいけないこと? なによそれ。聞いてない」
 こっちだって聞いてないよ色々と……出かかった言葉を彼は飲み込んで、彼は説明を続ける。
「君が欲しいのは、普通はこう……なんていうかさ……」
 続けようとは試みているのだが、はやり気恥ずかしさが言葉を濁してしまう。特に相手が愛らしい女性なら尚更……だがその愛らしい女性が精子をくれと強請っているのだから恥ずかしがる必要など無いのだが、そのように自分の立場を引いて見られるほど彼の人生経験はそれほど深くない。
「えっと……女性に興奮しながら、ここを……その、擦るんだよ。そうすれば出るんだけどね」
「ああなんだ。エッチなことすれば良いんだ」
 苦労して紡ぎ出した言葉をアッサリと言い直しされては、彼だって少なからず憤りを覚える。小人を見つけてからずっと混乱して大人しくしているが、彼は元来そこまで大人しい男ではない。
「あのなぁ……こっちは訳も分からず出せだの死ぬだの言われて、仕方なく付き合ってんだぞ。もうちょっと言い方とかあるだろ」
「訳わかんないのはこっちよ。もったいつけないで出せばいいじゃない。アンタだって気持ち良くなるんでしょ? なら別に良いじゃない」
 当然といわんばかりの口ぶりに、状況になれてきた彼は眼を細め眉をひそめ始める。そしてだいぶ混乱も収まり色々と考えられるようになってきた彼は、ニヤリと口元をつり上げ始めた。
「言ったろ? 出してやっても良いが俺が興奮しなきゃならないんだよ。ほら、欲しかったら俺を興奮させてみろ」
 先ほどよりは萎えてきた陰茎の根本を摘み軽く上下に振りながら、彼は小人に「興奮」を要求し始めた。
「興奮させろって……どうすれば良いのよ」
 今度は小人が戸惑い始めた。マグネタイトのありかを知識として持ち合わせてはいたが、その摂取方法を知らなかった彼女は、当然人間の男がどうすれば興奮するのかなど具体的に知るはずもない。ただ漠然と判っていることは一つあるが。
「エッチなことすれば良いんでしょ?」
「判ってるじゃないか」
 判ってると言われても、そこでまた彼女は戸惑った。彼女の知るエッチなこととは、男が女の身体に触れたりジッと見つめたり下着を見たり……といった、かなり漠然とした幼稚園レベルのものでしかない。
「えっと……私に触れば良いんじゃないの?」
「それだけで興奮するはず無いだろ」
 触ることがエッチなことなのは確かなようだが、それだけでは物足りないと言う。まあ確かに彼からしてみれば、小人に対して欲情し始めたとは言え見ているだけで射精できるほどの興奮を得ているわけではないのだから当然ではある。感情の高ぶりだけでなくそれ相応の刺激もなければならないのが普通なのだが、そんな事を幼稚園レベルでしか性知識のない小人が理解できるはずはなかった。
「……じゃあどうすれば良いのよ」
 そう尋ねるしか、小人に出来ることはない。そしてそうなることを想定していた彼は、再び口元をつり上げた。
「まずはこれを擦るんだよ。君がね」
 ぶらぶらと指で陰茎の根本をつまんで軽く振りながら、彼は行動の指針を告げた。擦ると言われてもどうすれば良いかまだイマイチ飲み込めていない小人だったが、死活に関わることである以上、どうにか言われたとおりにするしかない。とりあえず先ほどと同じように、陰茎にしがみついてみた。
「そのまま上下に擦ってよ」
 言われるまま、小人は陰茎に抱きつきながら全身を上下に動かし擦り始める。これで良いのか戸惑いながらチラリと上を見上げると、彼はまさにエッチなこと、つまり性的な興奮を抱きながら小人を見つめていた。
 ごく普通に見るだけなら、可愛いとは思っても異性を感じることはない小人。しかし実際にその小人が陰茎にしがみつき身体を擦りつけてくると話は違ってくる。しがみつく腕や身体から伝わる暖かさ、そして僅かにある突起……それが小人の胸だと理解すると、それだけで興奮材料になる。端から見れば彼の興奮は異様とも言えるだろうが、しかし小人を実感している彼にしてみれば、ごく自然な、当たり前の反応でしかない。
 そして小人はどうかと言えば……初めて見る人間の男性器を全身でしごく事になった、この妙な状況にも次第になれてきた。最初に見たときはいびつなキノコのように思えた陰茎も、触れてみればキノコと違い暖かみがあり、身体の一部であることを思い知る。なによりこのキノコ、動くのだ。時折ビクンと跳ねるように動き驚かされるが、その度に上からゴメンゴメンと声がする。どうやらこれが「興奮している」ということなのだと、小人も徐々に理解をし始めていた。そういったことを理解できるだけの落ち着きはあるのだが、しかしその落ち着きも、なにやら「妙な気分」に支配され始めている……事に、まだ小人は自覚できていなかった。
「そこのさ、くびれてるとこ……そこを手でなぞってみて」
「ここ?」
 陰茎がいびつなキノコだとするならば、持ち主の言うくびれはカサの部分だろうか。カサの縁はキノコのように均等な円にはなっておらず、ちょうど小人の胸が当たる部分がカサの上の方で、そこからカサの縁は斜め下へと向かっている。小人は腕で陰茎にしがみつきながら、奥にあるカサの縁を下から持ち上げるようにしながらさすってみる。
「そ、そこ……いいよ、気持ちいい」
 縁を擦る小人の手もそうだが、腕がちょうどくびれの内側に入り動かされるので、その刺激がまた彼を興奮させた。
「へぇ、ここが気持ちいいんだ……興奮してるんだよね?」
「ああ、してるよ」
「そっか……へへ、なら早く出してよ」
「もっと興奮させてくれたらね」
「まだなの? もう、ちょっと疲れちゃったよぉ……」
 疲れているのは事実だが、小人は休む気になれない。早くマグネタイトが欲しいから……それもあるのだろうが、小人の脳裏にその意識はあまり残っていない。自覚はないが、小人も間違いなく興奮していた。ただ彼女はその高揚がなんなのかを、理解できていないだけで。変な気分になっているとは認識しているが、その因果関係に気付いていない。ただしたいように、考えるよりも身体が動くままに、小人はカサを擦り胸を押しつけ、言われてもいないのに股間まで強く押しつけながら上下にただひたすら動き、熱く大きくなっていく陰茎を擦り続けた。
「あ、出て来た!」
 意識が僅かに鈍っていたのか、小人は陰茎から出て来た透明な液体に気付くのが遅れた。本来の目的を思い出した彼女は、ようやく出て来た精子とやらに直ぐさま口を近づけ舌を伸ばし舐め始めた。
「ちょっ、それまだ違う……」
 出て来たものは精子ではなく、カウパー。小人が望んでいる物ではないことを彼は告げてやる。
「違うの? でもこれ……ん、これだって美味しいし、マグもあるよ?」
 違うと言われガッカリはしたが、しかし口に広がる「活力」は間違いなくマグネタイト。それを確信しながら、小人は何が違うのか見上げながら男に問う。
「それは先走り汁……精子が出る前に出る奴で、もっと続けるとお目当てのが出るから……続けてくれ」
「そうなの? ふぅん……これだけでももういいけどね」
 そこで満足されてはたまらない。ここまできての寸止めだけは勘弁して欲しい彼は、それを悟られないよう務めながらもっと続けるよう促す。小人はといえば、ひとまずの満足感はあるものの、更にまだ出るのならと、男の言う先走り汁を舐めながら陰茎への刺激を再開した。もっとも、小人がまた身体をすりつけ擦り続けているのは、彼女もまたこのままでは収まりが効かなくなっているからでもあるのだが……それを自覚することなく、感情のまま身体を動かし続けた。
 粘りけのある透明な液。それを舐めることはつまり、鈴口を刺激されること。自分の手でする自慰とは全く異なる陰茎の新鮮な刺激に、彼は恥ずかしさも忘れ息を荒げ続けた。その様子が興奮している証であることくらい、さしもの小人にでも判る。彼がかなり興奮しているのをチラリと上目遣いで確認すると、小人は身体の動きを早めた。ビクビクと陰茎が揺れる間隔もだんだん短くなってくる。その度に抱きつく腕に力がこもり、ただ夢中で身体を擦り、伸ばす舌も激しくなる。いつしか、小人も彼同様息を荒げていたが、その事に彼も、そして当人も気付いていない。
「くっ、ん……も、もうすぐ……」
 陰茎が大きく揺れる。それでも小人は振り払われないようシッカリと抱きつく。
「早く出して、出してよ!」
 シッカリと抱きつきながら、小人は更に激しく身体を擦りつけ腕に力を込める。
「キャッ!」
 そしてついに、小人が舐めていた鈴口から、まるで間欠泉から湯が飛び出すかのように白濁した液体が勢いよく射出された。
「な、なにコレ……ひゃっ、これ、んあっ!」
 飛び出した液体を浴び、小人は身体をビクビクと小刻みに震わせた。目的であった精子……マグネタイトを浴びることで小人はそこから「活力」を得ていく。が、予想以上に流れ込む活力の量に、身体が痙攣を起こした……と、本人は自覚しているが、しかし彼女の様子は間違いなく、人間の成人女性が「逝った」時の、それである。
「ハァ、ん……気持ち良かったよ……どう? なんかぶっかけちゃったけど……いいのかな?」
 間違えてミルクを掛けてしまったときにした妄想が、今現実となっていた。自分の精子で全身を濡らす小人の姿はあまりにも淫猥で、彼の中でまた興奮を呼び覚まし始めていたが、そもそもの目的は射精そのもので、ひとまず小人からのリクエストには応えた形になる。一度射精した彼は興奮をリセット出来、再びムラムラと湧き上がり始めた興奮をどうにか抑えながら小人に尋ねた。
「凄いの……凄い、こんなにマグがいっぱい出るんだ……」
 男とは異なり、小人はまだ興奮冷めやらぬといった様子。全身に掛かった精子を舐めるのに夢中だ。彼はまだマグネタイトというものを全く理解できていないが、小人の様子を見る限り、彼女にとって大切な物のようだ。それは理解できたが……そもそも彼女は何なのか? その根本は未だに解決されぬままだ。
「ところでさ、君は一体……」
「ね、ね! まだ出る? もっと欲しいな。ね、出してよ。また興奮してよ! ね、いいでしょ?」
 了解も得ぬまま、小人は萎えた陰茎にまたしがみつく。
「ほらぁ、さっきみたいに大きくしてよ。なんでしぼんでるの? 柔らかいしぃ、ね、早く、ほら、いっぱい動くからぁ、もっと出して、興奮して、ほら、ほら!」
 小人が興奮するほどに、その異様な様を見て彼は醒めてしまう。なんだってこんなに……ちょっと異様だろう。あまりにも必死な小人の様子を見て僅かに狼狽えながらも、しかし彼の身体は刺激に対して素直だった。
「ん、だんだん起きてきた……ん、もっと硬くしてよぉ」
 彼はもう苦笑するしかなかった。小人の様子を見て引いていたのに、ちょっと弄られるだけでムクムクと陰茎と興奮が持ち直る自分のスケベさに。
 それでもまだ心にゆとりのある彼は、陰茎を小人にされるがままにしながら、疑問の解消をしようと口を開く。
「君はいったい……なんなの?」
 まずは根本的なところから。彼の質問に、小人は小首をかしげながらも口を開く。
「ピクシーよ。見て判るでしょ?」
 さも当然だろうと言わんばかりに、ピクシーと名乗った小人は精液に濡れた身体で陰茎にしがみつき、先ほどまでと同様身体全体で擦り始めた。
「いや、わかんないって……君みたいなの、初めて見るし」
 そもそもその存在自体、初めて知ったのだから。
 いや、それは厳密に言うとちょっと違う。少なくとも彼は、ピクシーという名に聞き覚えはあった。ゲームによく登場する妖精が同じ名前であったのを思い出す。なるほど、言われてみればゲームに出てくるピクシーに特徴はよく似ていると、改めてしげしげとピクシーを見ながら頷く。もっとも、ゲームのピクシーはこんないやらしいことなんてしなかったが。
「うっそぉ。だってアンタ、サマナーかなんかでしょ? 普通私達のことくらいは知ってるでしょ?」
 サマナー? また聞き慣れない単語が出て来たと彼は眉間にしわを寄せる。
「なにそのサマナーって?」
「あれ、違うの? だってアンタ、私のこと見えるんでしょ?」
 なにやらおかしな事を言い始めた……それでも根気よく尋ねていくしかないと、股間からせり上がってくる快楽に興奮しながら、彼は疑問を次々と解消する作業を進める。
「見えてるけどさ……初めて見たよ。ていうか、君みたいなのが実在するなんて思ってもなかったし……」
「へぇ、本当にサマナーとかじゃないんだ。普通の人?」
「普通……だと思うよ? とりあえず、そのサマナーとかってのじゃないし」
 もし、ごく一般的な女性から「普通?」と尋ねられたら、彼は答えづらかっただろう。本屋のアルバイトをしていたが、その仕事先が不況の煽りでつい先日閉店してしまい、今無職……という状況を、胸を張って普通とは言い難かったから。だがこのピクシーが言う「普通かサマナーか」という問いならば、彼は普通と答えるしかない。
「じゃあなんで私が見えてるの?」
「それを俺が聞きたいよ……普通は見えないの?」
 ピクシーの口ぶりから、普通の人間には彼女が見えないらしいことを彼も察したが、何故見えるのかまで本人だって知るよしもない。
「変なの」
「んなこと言われてもなぁ……」
 むしろ変なのは、そのサイズで生きていて、更に「こんな事」までしている君だろう……と口にするのは賢い選択ではないことくらい、今の彼でも充分判っている。
「まあいっか。私はマグを貰えればなんだって」
「そのマグ……マグネタイトだっけ? それって何?」
 僅かにまた息が荒くなりそうなのを堪えながら、次の質問へと彼は切り返した。
「私達のご飯かな? マグネタイトがないと、こっちの世界で生きていけないの」
 こっち、という言い方にまだ引っかかる物を感じながらも、とりあえず何故ピクシーが必死にそのマグネタイトという物を求めていたかは理解した彼。そろそろそのマグネタイトをまた放出しそうになってきたが、まだ聞きたいことはあると堪えながら彼は言葉を続ける。
「じゃあこんなことをいつも誰かにしてるの?」
「まっさかぁ。こんなの、初めてやったよぉ。普通はね、その辺にあるの」
 その辺にある物がどうして精子にも含まれているのかいまいち理解できない彼であったが、それをまた聞き返す前に、今度はピクシーから彼へ根本的な質問がされる。
「そういえばさ、アンタなんていうの?」
「へ? ああ……俺の名前?」
「そうそう。なんていうの?」
 自分の陰茎を晒したあげく射精を手伝わせ精子を全身にぶっかけてから自己紹介……しかもまた続きをしながらである。この異様な状況に苦笑しながらも、彼は自分の名前を口にする。
「金清(かねきよ)武(たける)」
「変な名前」
「悪かったな」
 自覚はしているが、人から言われると腹も立つ。だが言われ慣れているのも確かで、特にそれ以上怒ることもなかった。
「ねえタケル、私を「仲魔」にしない?」
「仲間?」
 それは友達になろうという意味なのだろうか? 武は突然告げられた提案、その意図を再び尋ねようとしたが、それより早くピクシーから「仲魔」の定義が示される。
「そ、仲魔。私と契約を結んで、私をタケルの仲魔にするの。ね、いいでしょ?」
「契約?」
 友達となるのに契約なんて普通必要ない。どうやらまたニュアンスに違いがあるようだと武は思い直すが、ピクシーも同様に食い違いが生じているのを感じたようだ。
「ああそっか、サマナーじゃないんだもんね。あのね、「仲良し」の「仲」に、「悪魔」の「魔」で、仲魔。悪魔との契約とか、判らないかな?」
「いや、何となくは判るけど……」
 せり上がる興奮がまた醒めてくるのを武は感じていた。悪魔との契約といえば、願いを叶えるために大きな代償を支払うという怪しい儀式……武は真っ黒な怪しげな服に身を包んだ集団と魔法陣、そしてそこから現れる翼を生やした赤い肌の悪魔を瞬時に想像する。そんな怪しげな儀式とはほど遠い、愛らしい羽根を生やしキュートな赤髪のピクシー……鈴口を舐めるその口からそんな怪しげな契約話が出てくるとは思いもせず、思わず怪訝な顔つきをしてしまう。そんな武の様子を下から見上げていたピクシーが、笑い出した。
「アハハ、違うよぉ。たぶんアンタが考えてるのとは違うから。ただこれからもマグネタイト頂戴ねって、それだけ」
 他にも何か意味があるような気がすると武は感じていたが、要求している物が美女の生贄とか自分の命とかではないことに、とりあえず安心したようだ。しかし「契約」である以上、一方的に与えるだけというのはおかしい。
「俺には何かあるのか?」
「ん……いいじゃん。気持ちいいんでしょ?」
 つまりピクシーから武には何も与えられないらしい。だが気持ち良いのは確かで、別にこんな事なら……と安易に考えてしまう武。だがこれも彼にとって重要な分岐点なのだが……
「まあいいけどさ……」
 アッサリと、武は決めてしまった。この決定が、武にとって今後の人生にどれほどの影響力を与えるのか……当然当人に知るよしもない。
「ホント? やったぁ! これでもうマグ集めに困らなくてすみそう」
 少なくとも、契約相手であるピクシーは自分の糧が得られるようになったことを素直に喜んでいる。嬉しそうにしているピクシーを見ていると、武は自分の決断が良いことだと思え、なんだか和んでしまう。ピクシーが嬉しそうにしながら「今していること」を考えれば、和む光景ではないのだが。
「だったらほら……もっと気持ち良くしてくれよ」
「まかせて。ここだっけ? ここ手で擦ると良いんだよね?」
 カリの根本を手でまんべんなく擦り、胸をグリグリと押しつける。笑顔は亀頭に近づき、微笑みから伸びる舌が鈴口をチロチロと舐め始めた。
「くっ……」
「ふぅん、いいんだ、これがいいんだぁ。ん、ベロ、チュ……ん、気持ちいい?」
「ああ、イイ感じだ……」
「へへぇ、気持ちいいんだぁ……なら早く出してよぉ、精子ぃ、マグネタイトぉ、ん、チュ、ベロ……」
 一度目は黙々と興奮を募らせていた二人だったが、二度目は余裕があるのか、口数が多くなっている二人。武はより細かくピクシーに注文を付け、ピクシーはその度に気持ち良いかを武に尋ねた。
「なあピクシー……」
「ん、ふぁ、なに?」
 小さくても判る、あからさまに高揚した頬。武は自分も頬を赤らめながら彼女に尋ねた。
「お前も興奮してるのか?」
 どう見ても、ピクシーは興奮していた。好物であるマグネタイトへの期待からではなく、あからさまに性的な興奮をしている……少なくとも武にはそう見えた?
「よく、わかんない……んっ、なんか、こうしてるとね、変な気分なの……なんかね、楽しくて、嬉しくて……んっ! よく、わかんないけど、いいかんじ……」
 それを興奮しているというのだが、ピクシーは自分の状況が判っていない。そもそも性的な興奮をコレまでにも感じたことがあるのかすら疑問……武にはそう思えてならなかった。
 もし、もしも……ピクシーが初めて性的な興奮を覚えたのだとすれば……武はそんな想像に囚われ、痛いほど心臓をバクバクと唸らせてしまう。
「き、きもちいい……の、かな?」
「きもち、いい? ん、んん……うん、これ、そう、これね、んっ! きもち、いい、うん! これ気持ちいい! ふあ、私、私も気持ちいいよ、タケル、タケルぅ! 私も気持ちいいんだぁ!」
 性への目覚めがこんなに直接的なものになったのか……自身も性的に感じていると自覚したとたん、ピクシーはあからさまに興奮の度合いを急激に上げた。
「そっか……くっ、な、なんか、嬉しいね……一緒に気持ち良く、なれてさ……」
「うん、いい、いいねタケル! すごい、気持ちいいの、いいの、ね、タケル、タケルぅ! タケルもいいんでしょ? 気持ちいいんだよね!」
「ああ、気持ちいいよ……そろそろ、また出る……」
「出すの、気持ちいいから出すの! ね、出して、またピュルっていっぱい出して! マグ、マグいっぱい、私に出して、かけて、タケル、タケルぅ!」
 覚えたてのテクニックを総動員し、ピクシーは武を激しく攻め続けた。自分で指示した自分のツボを攻め立てられ、武は自然と腰を浮かしピクシーがいるにもかかわらず動かしてしまう。それでもピクシーは気にもせずしがみつき身体を擦らせ鈴口を舐め催促し続けた。
「出るっ!」
「ふぁあ! ん、出てるぅ……ん、すごぉい、出てるよタケルぅ……ん、ふぁ! ん、すごいマグ……んぁあ!」
 新たな白濁液を浴び、ピクシーはまたビクッビクッと身体を震わせた。体中に駆けめぐる電撃のような刺激は、マグネタイトから得られる活力だけではない。
「ハァ、ハァ……ん、ふぁ……フフッ、すっごぉい……これが気持ちいいってことなんだぁ、ふふ、アハハハ」
 嬉しそうに楽しそうに笑う小妖精。愛らしい容姿に似合うその笑みはとても可愛らしいのだが、目尻の下げ方や口元の緩め方、細かい表情のそこかしこに……淫猥な笑みが見え隠れしている。
 少女が大人になっていく。無垢な妖精が性に目覚め汚れてゆく。自分の手で変えた。自分の手で汚した……武はピクシーの僅かな変化を感じ後ろめたさにチクリと胸を痛めるが、そんな痛みなど物ともせず興奮で胸は高鳴っていた。これは彼女が望んだ結果なのだと言い訳をする自分と、「契約」によって自分の物にした……そんな高揚とが、彼の中で渦巻いていた。
 もし、先ほど簡単に交わした契約に「見返り」があるとすれば、この高揚なのかもしれないと武は思う。無垢で何も知らなかった妖精を自分の「色」に染める……暗い欲望と淡い恋心が入り交じったその「色」は、さて人の目に見えるとすればどのような色なのだろうか?
 これで良かったのだろうか……ふと、今更ながら我に返る武。通過した分岐点まで戻ることはもう出来ないが、振り返ることは出来る。冷静に、自分の選んだ道を確かめようと思った武だったが……すぐに思いとどまった。今そんなことをする時ではない。今はこの愛らしい小さな「仲魔」を愛でる喜びに心を染めよう。そう武は思い直しジッと彼女を見つめていた。
「すっごい量……さっきよりも多くない?」
 濡れた身体を更に精液で濡らし、嬉しそうに笑いながら武を見上げるピクシー。
「そうかな……普通二度目は少ないもんなんだけど……」
 一度目より二度目は量が減る、それは男にとって常識なのだが、性に目覚めたばかりのピクシーがそれを知るはずもない。だが本当に物量が増えたのかは別として、マグネタイトは間違いなく先ほどよりも多くなっていた。
 武は当然として、ピクシーもよく解ってはいないのだが……マグネタイトとは物質的な量だけでなく感情の起伏や感情の「質」にも左右される。今二人が「精製」したマグネタイトの量が先ほどより多くなったのはその為なのだが……今の二人に、そのような講釈は必要ないだろう。
 そもそもマグネタイトとは何なのか? ピクシーが言うとおり彼女にとっては「ご飯」なのだが、単純にそれだけのものではなく、もっと重要かつ貴重な物質で、武はこのマグネタイトを巡り様々な困難に立ち向かう「分岐」を選択してしまっているのだが……その事に気付くのは、今日よりはもっと先の未来。今はただ、「仲魔」となったピクシーと欲情にふけるばかり……。
「ねね、もう一回しよ!」
「ちょっ、流石に三回はキツイぞ……」
「えー、だって契約したじゃなぁい! 気持ちいし美味しいし、二回で止めるとか信じられない!」
「いや、これだって何度も出るモンじゃないんだって」
「でもさー、タケルだってしたいでしょ? ほら、ここはまたおっきくなってきたよ?」
 陰茎に、男にしか判らない特有の「痛み」を感じつつも、物足りないとせがむのはピクシーばかりではないと思い知る、愚息の父親。性に目覚めたばかりの小さな恋人はそんな武の疲れなど構うことなく大好きなその愚息に飛びついている。
「しょうがないなぁ……これで最後だぞ? これ疲れるんだからな」
「やったぁ! ん、ふふ、これ本当に気持ち良いね……ん、タケルもいいんでしょ、こことか、ここ……ふふ、すっごい顔してるよぉ」
 奇妙な「仲魔」に笑われても、武は悪い気分にはならない。愛らしい中に淫靡さが見え隠れするようになったその笑顔を向けられれば、男としては喜ばしいものだろう。
 数奇な運命と、一言で言ってしまえばそれまでだが、武はここへたどり着くまでにあらゆる分岐点を通過している。その都度選択した行く末が、果たして正しかったのかどうか……分岐の選択に明確な「正解」はないが、少なくとも選択を続けた結果が今に至っている。そして彼は、この後も重要な分岐点を何度も迎えるだろう。その時、彼は自分の望む結果を引き寄せることが出来るのか……ピクシーという仲魔を得た彼が、さて無事に望み通りの未来を迎えられるかはまた……後ほどに。
 ああ、一つだけ武にも判る分岐点があった。そして彼はその選択を「後悔」していた。
「……最後って言わなかったっけ?」
「えぇ! まだ行けるでしょ!?」
 性を覚えたての若人に限界はない。それを思い知ったとき、彼は三度目を許したあの選択を間違えたのだと後悔していた。

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